2015年3月1日日曜日

アメリカン・スナイパー



「ミリオンダラー・ベイビー」「許されざる者」の名匠クリント・イーストウッドが、米軍史上最強とうたわれた狙撃手クリス・カイルのベストセラー自伝を映画化。米海軍特殊部隊ネイビー・シールズの隊員クリス・カイルは、イラク戦争の際、その狙撃の腕前で多くの仲間を救い、「レジェンド」の異名をとる。しかし、同時にその存在は敵にも広く知られることとなり、クリスの首には懸賞金がかけられ、命を狙われる。数多くの敵兵の命を奪いながらも、遠く離れたアメリカにいる妻子に対して、良き夫であり良き父でありたいと願うクリスは、そのジレンマに苦しみながら、2003年から09年の間に4度にわたるイラク遠征を経験。過酷な戦場を生き延び妻子のもとへ帰還した後も、ぬぐえない心の傷に苦しむことになる。イーストウッド監督とは初タッグのブラッドリー・クーパーが、主演兼プロデューサーを務めた。

 映画を観るという行為の醍醐味が、「疑似体験」にあるのだとしたら本作は最高の映画だと言える。一人の男が精神を壊され、正常な状態を失いながらも残った卓越した技術で戦場の伝説と呼ばれていく、地獄のような体験を見事に追体験させてくれた。劇中にあった、「我が子と同じ年頃の幼児を撃つのか撃たないのか」というシーンでは、映画を観ながら緊張感で吐き気を覚えたほど。

 イーストウッドの演出は相変わらず鮮やか。主人公クリスの人格形成に影響があったと思われる子供時代などざっくり省略するところは簡単に済ませて、エンドロールのあの演出のように効かせるところはじっくりと、メリハリを効かせるってのはこういうこと。

 シールズに見えるよう筋肉ダルマに増量して挑んだブラッドリー・クーパーの作り込みも見事だった。見事っていうか、クリス・カイル本人と似てるよね。ブラッドリー・クーパーって瞳が綺麗なので、壊れていくクリスの目が綺麗なのが却って怖いっていう。

 物知らずなので映画で初めて知って印象的だったのが、クリス・カイルが1974年生まれだったこと。日頃関わることが多く親しみのある米国に、自分と1歳しか違わない、「戦場の伝説」が居るということ。そして我が国にはそのような存在は存在しないということの意味。流石にいろいろと考えさせられました。

 人がバンバン簡単に死んでいくこと含めて、実話ベースである今作を、「面白い」って言ってしまうことには抵抗があるのですが、間違いなく凄い映画だったと思います。
 

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